地域の声
以前のように混ぜて出すのは
考えられない
民宿・松波荘
阿部 孝義さん、静代さん夫妻
南三陸町の南部に位置する戸倉地区は漁業中心の地域。戸倉地区に位置する「松波荘」は、部屋数4室・定員15名の素朴な漁師民宿である。朝、作業場の軒先でカレイの網にかかった雑カニを外していた阿部孝義さん、静代さん夫妻にお話しを聞いた。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。)
「臭わず清潔で楽になったよ」
孝義さん:「このカニはよ、分別で出すほうじゃねえんだ。」
味噌汁の出汁に使われる雑ガニが泡を吹きつつバケツ容器の中にごろんと放り込まれた。家族経営の民宿なので自家用の家庭系生ごみも出るのだが、当初、家庭系の生ごみ分別回収が始まった際には参加しなかったという。無料で回収処理が行われる家庭系生ごみの回収バケツへ民宿経営者が自家用の生ごみを入れるのは全く合法とはいえ、若干の気後れがあったようだ。そこへ役場から事業系の生ごみ分別回収への協力要請があったのを受け、自前の回収バケツを購入してできることから始めてみることにした。取り組んでみての感想を静代さんが語った。
孝義さん:「最初は分け方が難しい気がしたけど、やってみたらすぐに慣れたし、簡単よ。(手間は)さほど変わらないね。燃やすごみはクリーンセンターで、生ごみはアミタさん(事業者はBIOをそう呼ぶことが多い)のとこだから、持っていく場所が二つになるけど、慣れればむしろ楽。清潔感があってごみが軽くなるし、非常に楽よ。」
事業系生ごみの回収は運搬業者に委託すれば有料だが、阿部さん夫妻は週に一回ペースでBIOに生ごみを持参しているので処理費のみの負担だ。家庭系生ごみの回収用バケツと同じ容器を自前で購入すれば、BIOの業務時間中にいつでも持ち込める。以前は全量をクリーンセンターに出していた可燃ごみが、生ごみの水分がなくなった分、軽くなって持ち運びが楽になったという。
雑ガニを網から外す松波荘主人の阿部孝義さん
孝義さん:「生ごみを一回に運ぶ量は40㎏ぐらいだね。それがだいたい一週間に一度。客が多い時で二度。楽だし、今は混ぜると抵抗感があるね。分別しないでクリーンセンターにビニール袋で運んでいたときは水気が多くて重かったし、袋に穴が開くと車も汚れるし、大変だったよ。ましてや夏場は臭くて大変。いまは蓋付きのバケツで密封できるから魚のワタでも臭わないし、うんと清潔になったね。」
もう以前のように混ぜて出すのは考えられないという阿部さん夫妻。分別回収のメリットを大いに体感している様子であった。
プロフィール
阿部 孝義さん、静代さん夫妻
民宿・松波荘
松波荘は戸倉地区の南端にある神割崎の間際で営まれている。神割崎は、その昔、漂着したクジラの所有権を巡って住民が争いを続けていたところ、神様が怒って落雷と共に地境の巨岩が真っ二つに裂けたという伝承が残る名勝である。